高文研

トップページ >> テニスコート

テニスコート

 夕方、久しぶりのお客様が見える。市場に来るのは近くでパソコン教室がある火曜日が多い。この店は火曜日定休なのでなかなか来られないのだと申し訳なさそうに話される。
 幸田文が好きで、青木玉、青木奈緒も読む。露伴は読みにくい。狭い店で壁ぎりぎりまで下がりながら、棚の本を1冊ずつ見ていかれる。
「中原中也、なつかしい。でもね、私はあの人が好き。ほら、沖縄の詩人で…」
「山之口貘ですか」
「そう、あの人の『座蒲団』が好き。土の上に床があって、とかいうのね。一度学校に来たことがあるの」
「えっ」
 首里高に通っていたころ、貘が母校で講演をした。今グラウンドになっている場所の裏にテニスコートがあり、そこに集められた。参加したのは数十人で、全校生徒ではなかった。話は何も覚えていない。
 1958年11月、貘が34年ぶりに沖縄に帰ってきたときのことだろう。あちこちに呼ばれて忙しく、1ヶ月の予定が2ヶ月滞在したと評伝にはある。
「今だったらパイプ椅子なんか出すんでしょうけど、あの頃はね、地面にじかに座らされてね」
 それこそ「座蒲団」の世界ではないですかと思ったけれど、いわなかった。年末で寒かっただろうと思えば「生活の柄」でもある。

Posted by uchinan : 16:13 | Page Top ▲