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獄中記

 土曜社さんより、新刊『獄中記』が届く。20代の大杉栄、何度も監獄に出たり入ったりしながら、本を読み外国語を勉強し、看守や獄友を観察する。相変わらずの明るく軽やかな文章。

 「女の脛の白きを見て」という章題が、目をひいた。
 牢に入れば煙草も吸いたくなくなるし性欲もなくなる、と書きながら、「東京監獄での第一の楽しみは、女の被告人か囚人かを見ることであった」という。女監へ向かう新入りの足跡が聞こえると、窓際に走っていって品定めをした。裁判所に出向く途中にも、道ゆく婦女子に釘づけになった。

「こっちはただ諸君の姿さえ拝ましてもらえればいいんだ。久しぶりでそとへ出て、見るものがすべて美しい。というよりは珍しい。すべてがけばけばしく生き生きとして見える。ことに女は、女でさえあれば、どれもこれも、みな弁天様のように美しく見える。」

 室生犀星の「鞄(ボストン・バック)」を思いだす。出獄したばかりの男の話。
「二年半のあいだに四回見た女の顔は、二年半のあいだかれに毎晩その顔をすぐわきにならべて寝ていてくれた。」
 鉄のくぐりを出て、タバコもとうふもおいしい、何より女と話すだけでうきうきする。上野行きの汽車で隣に座った女の手を握り、女のいる待合までたずねて行って仲良くなる。「娑婆世界」の幸せがいっぱいに書かれている。『舌を噛み切った女』(新潮文庫)所収。

 大杉栄は1885年に生まれて1923年に虐殺された。犀星は1889年生まれ、1962年没。今日は犀星の50回忌である。

Posted by uchinan : 16:13 | Page Top ▲