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本と人

1.
 アパートの階段を下りながら、
「荷物は多い?」
と不動産屋のおじさんに聞かれる。
「本が」
「どんな本?」
「小説です」
「そんなにたくさん小説読むの? どんな小説?」
「そうですね」
「三浦綾子とか?」
「そうですね、三浦さんの同世代の、安岡章太郎とか」
一瞬、三浦綾子と曽野綾子がわからなくなった。
「安岡章太郎? あのね、僕は三浦綾子の『塩狩峠』が好きなの。読んだ?」
「読みました、高校のときに」
「すごい話だよね。感動して影響を受けて、一時期は熱心に教会に通ったよ」
 へええ、と声を上げてしまう。「塩狩峠」が好きだという人には何人か会ったことがあるけれど、信仰に目覚めたという話は初めてだ。
 下についた途端に大雨が降ってきた。1個100円の白菜をキムチにした話や、台風の日に犬小屋で寄り添う犬と猫の話を聞きながら、止むのを待った。

2.
 教習所(沖縄の人は「自練」という。「自動車練習所」)の帰り、バスが停止するたびに運転手さんが本を読んでいた。
 紙のカバーは外されている。濃い緑色の単行本で、紐のしおりがついている。赤信号、渋滞のたびに開いては少し読み、置く。
 実技でへろへろになった身にはその余裕がまぶしく見え、しかし教習所の人が車の停止中に本を読むなんてご法度じゃないのかと思い、何をそんなに熱心に読んでいるのか、気になる。古い時代小説というのが無難な予想だろうか。

3.
 牧志公設市場の近くで、年配の女性が広げている本に紀伊国屋書店のブックカバーがかかっていて、思わず目を奪われる。
 沖縄に紀伊国屋書店はない。久しぶりに見る光景だった。
 こちらに来たばかりの頃、ゆいレールでジュンク堂書店のカバーがかかった本を読んでいる人を見て、うれしかった。本屋はこんなふうに町を変えていくのだと思った。
 明日は牧志駅直結のさいおんスクエアに、宮脇書店が開店する。国際通りに本屋が復活。町はどう変わるだろうか。

Posted by uchinan : 21:04 | Page Top ▲