高文研

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本と本屋と

 NTT出版のWebマガジン「WebnttPub」に連載させていただいている「本と本屋と」が、8月29日で最終回となった。全25回。第1回「桃色の本」は新潟店開店の話だから、2007年に始めたことになる。

 連載のきっかけは、NTT出版の島田さんに新年会の二次会で
「何か書いてみない?」
と声をかけられたことだった。
「やりたいです」
と言ったものの原稿は1本もなく、春になるまで何も書けずにいた。

 そのあとものろのろと更新して、2009年に那覇店に異動してからは余裕がなくなり、1年以上間を空けてしまった。それでも
「いかがですか?」
と毎月声をかけてくださった島田さんに、本当に感謝している。私が編集者ならとっくに打ち切っているだろう。

 私が書店を辞めることにして、今度こそ連載は終わりだと思ったのに、
「いったん最終回にして、また仕切り直しましょう」
と言ってくださった。
 このご恩に報いるため、二度と原稿を遅らせないようにしたい。心からの誓いである。

 最終回「本屋になる」は7月に書いた。まだ辞めることもあまり言っていなくて、決意表明の練習をするような気持ちだった。
 7月末で辞めて、8月は自練と引越しに明け暮れた。どちらも新しい本屋を始めるための準備だけれど、本とも棚とも関係がなくて、体力ばかり使って、ぼんやりしていた。
 さきほど新しい部屋で初めてネットにつなぎ、1ヶ月前に書いた文章を読んで、ずいぶん言い切ったものだなとあきれた。それでも、これが初志なら貫徹するしかない。

 来月の目標は、車の免許をとり、部屋を片づけて、本屋になっていくこと。皆さま9月もよろしくお願いします。

Posted by uchinan : 22:15 | Page Top ▲

本と人・翌日

1.
 なぜか不動産屋のおじさんと飲みに行く。
「昔は作家になりたかった」
「何が書きたかったんですか?」
「恋愛小説」
「三浦綾子のほかはどんな作家が好きですか?」
「太宰治」
 『お伽草紙』の「カチカチ山」は、兎と狸を女と男にたとえて、何度読んでも笑ってしまう面白さだという。読み返してみたくなった。

2.
 自練行きのバスの一番前に乗り、運転手さんの持っている本を覗きこもうとする。信号で止まったとき、ようやく背表紙の一部が見えた。
「朝倉恭介 Cの」
 これでわかる。さらにそのあと、下のほうに「楡」という字があるのも見えた。楡周平か。確かに、読み始めたら止まらなくなるのだろう。
 『朝倉恭介 Cの福音・完結篇』
 10年前の宝島社の本。今は文庫になっている。古本屋で買った単行本なのだろうか。

3.
 宮脇書店開店。新しい棚、きちんと並んだ本がまぶしい。なんとなく地図が欲しくなり、昭文社の『那覇市』を買う。沖縄本コーナーが1面と、大幅に減っていた。

Posted by uchinan : 00:11 | Page Top ▲

本と人

1.
 アパートの階段を下りながら、
「荷物は多い?」
と不動産屋のおじさんに聞かれる。
「本が」
「どんな本?」
「小説です」
「そんなにたくさん小説読むの? どんな小説?」
「そうですね」
「三浦綾子とか?」
「そうですね、三浦さんの同世代の、安岡章太郎とか」
一瞬、三浦綾子と曽野綾子がわからなくなった。
「安岡章太郎? あのね、僕は三浦綾子の『塩狩峠』が好きなの。読んだ?」
「読みました、高校のときに」
「すごい話だよね。感動して影響を受けて、一時期は熱心に教会に通ったよ」
 へええ、と声を上げてしまう。「塩狩峠」が好きだという人には何人か会ったことがあるけれど、信仰に目覚めたという話は初めてだ。
 下についた途端に大雨が降ってきた。1個100円の白菜をキムチにした話や、台風の日に犬小屋で寄り添う犬と猫の話を聞きながら、止むのを待った。

2.
 教習所(沖縄の人は「自練」という。「自動車練習所」)の帰り、バスが停止するたびに運転手さんが本を読んでいた。
 紙のカバーは外されている。濃い緑色の単行本で、紐のしおりがついている。赤信号、渋滞のたびに開いては少し読み、置く。
 実技でへろへろになった身にはその余裕がまぶしく見え、しかし教習所の人が車の停止中に本を読むなんてご法度じゃないのかと思い、何をそんなに熱心に読んでいるのか、気になる。古い時代小説というのが無難な予想だろうか。

3.
 牧志公設市場の近くで、年配の女性が広げている本に紀伊国屋書店のブックカバーがかかっていて、思わず目を奪われる。
 沖縄に紀伊国屋書店はない。久しぶりに見る光景だった。
 こちらに来たばかりの頃、ゆいレールでジュンク堂書店のカバーがかかった本を読んでいる人を見て、うれしかった。本屋はこんなふうに町を変えていくのだと思った。
 明日は牧志駅直結のさいおんスクエアに、宮脇書店が開店する。国際通りに本屋が復活。町はどう変わるだろうか。

Posted by uchinan : 21:04 | Page Top ▲

沖縄語辞典

 今年3つめの台風。風は前より弱かったものの、のろのろと進むのを待つのに疲れた。沖縄本島は46時間も暴風域に入っていたそうだ。ジュンク堂書店那覇店は5日、2009年の開店以来初めて、終日閉店した。

 昨日もまだ強風が吹いていたが、自動車学校に入校するため、傘もさせないまま三越前まで歩いていった。バスを待つあいだに、ずぶ濡れの観光客が何人も走りすぎていく。
 遅れて到着した送迎バスには私ひとり。
「明日にすればよかったのに」
と運転手さんにいわれ、そうですね、とうつむく。いやなことは早くすませたかったのだ。

 授業が終わって手続きを確認しているうちに、帰りのバスは行ってしまった。雨はやんでも風が吹きまくるなかをとぼとぼ歩く。
 りうぼうの7階のリブロに寄った。沖縄本コーナーを見る。まだ知らない新刊は出ていないと確かめたところで、はっと平台に釘付けになった。

 『沖縄語辞典』(国立国語研究所・編、財務省印刷局)が平積みになっていたのだ。

 これまで何度か問い合わせを受け、
「版元品切れです」
と答えてきた。
「この本が? うそでしょ?」
と信じてくれないお客さまもいた。確かに、定番書として常に棚に並べたい本なのだが、ずいぶん前から品切れなのだった。

 その本が、3冊もある。品切れというのは私の思い込みだったのか。出版社に電話して確認したことはあっただろうか? もしずっと流通していたとしたら、うそをつき続けたことになる。非常にまずい。
 最近重版されたのか、と奥付を見たら、平成13年の9刷。では、ずっと前に仕入れた在庫がまだ残っているということなのだろうか。

 家に帰っていくつかネット書店を見ると、総じて「品切れのためご注文いただけません」の表示になっている。ひとまず安心した。
 さらに、琉球新報のこんな記事を見つけた。

沖縄語辞典、15年ぶりに再版 [1998年3月11日]  沖縄方言の最初の本格的辞典で古典的名著といわれる「沖縄語辞典」(国立国語研究所編、大蔵省印刷局)が、15年ぶりに本屋の店頭に並ぶことになった。再版を望む各方面からの声に押される形で8刷の刊行が決まったもので、研究者を中心に早くも歓迎の声が上がっている。県内でも11日から発売される。 (中略)  同書は、政府刊行物を扱っている文教図書の本店、各支店で発売される。定価は5200円。

 最後に出てくる「文教図書」が、リブロの前身である。県内ではほぼ独占販売だったのだろう。
 さらに、こんな記事も。

沖縄語辞典の増刷決定 [1998年3月25日]  15年ぶりに再刊された「沖縄語辞典」(国立国語研究所編、大蔵省印刷局)は、発行元の予測を超える売れ行きをみせ、品切れ状態が続いている。限定出版のため、一時は予約受け付けもストップしたほど。このため、国立国語研究所(国研)は、当初の方針を変更し、急きょ増刷することを決定。古典的名著といわれる同辞典の価値があらためて証明された形だ。/ 沖縄方言の初の本格的辞典として版を重ねてきた同辞典。15年ぶりの再版となった8刷が、県内で売り出されたのは去る11日から。那覇市久米の沖縄政府刊行物サービスセンターと文教図書の本店、支店には、発売開始とともに注文が殺到。予約を含め1週間で約600冊と、飛ぶような売れ行きで、入荷が間に合わない状況だ。/ 8刷の発行は限定1000部。このうち300部は全国の言語学者や研究機関用に確保されており、県内の店頭に並ぶのは最大限に見積もっても5、600冊どまり。予約客にも「確約はできない」と、断りを入れているため苦情の声が高まっていた。/ 読者の求めにこたえようと、同センターは大蔵省印刷局を通して国研と交渉、増刷を要求。限定出版の方針を崩さない国研に対し、予約リストを示すなど県内の実情を説明し、増刷による対応を迫った。(後略)

 たった2週間でこの展開である。すごい。5200円が600冊だから、312万円だ。これは売るのが楽しかっただろうな。

 店にあったのは確かに平成13年のものだったけれど、平成10年に2度刷っているということは、10刷にあたるのだろうか。刷や版の考え方はよくわからない。
 とりあえず、次に行ったら1冊買っておこうと思う。

Posted by uchinan : 18:10 | Page Top ▲

夏休み

 2011年7月31日、ジュンク堂書店への最後の出勤を終えました。

 2002年の4月に入社して、9年3ヶ月。こんなにたくさんの人に出会い、助けていただけるとは、思いもしませんでした。とても幸せな書店生活でした。出版社・取次の皆様、一緒に働いてくれた皆様、そして店に来てくださったお客様、友人、知人の皆様。本当にありがとうございました。

 退職しても、ブログは続けさせていただけるようです。信じられません。高文研さんのご好意に、心より感謝申し上げます。

 ジュンク堂を辞めても、「本屋繁昌節」です。ということは?

 ひとりでも「本屋」であるべく、これからじたばたしてみます。その様子をここでお知らせしていきますので、よろしければおつきあいください。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

                                            

Posted by uchinan : 11:03 | Page Top ▲